キミとならいつだって お出かけ日和

 

  “花王爛漫 夜桜爛々




今宵は群雲の欠片さえ掛からぬ月の光に見送られ。
ほのかにひんやり、でも一頃ほど寒くはない夜陰の中、
松田ハイツへ戻って来て、

 「月夜の桜も綺麗だったね。」
 「うん。」
 「まるで自分から発光しているみたいに白さが映えてて。」
 「そうだね。」

話には聞いていた、
ニュース番組の夜桜中継なんかで観たこともなくはなかった。
でもでも、じかに観ると やはり何というか、
小さなテレビ画面でデジタル技術を通して再現された画像とは違い、
実物そのものの佇まいは やはりやはり圧巻で。
町中なので街灯だってあってのこと、
漆黒の帳(とばり)とまでは行かない夜陰の中。
ガードレールや漆喰壁の白が浮かび上がるのとは全く趣きの違う、
これもまた生き物なのだなぁと感じさせるよな、
昼間とは全く違った印象の桜花の群れが、
ひたひたと夜道を来た二人を無言で迎えてくれて。
甘い暗さを満たした夜空を背に負うて、
昼の間の神聖な気高さは眠ってしまったか、
その代わりのように妖冶な存在感を朧に灯らせて。
おいでおいでと梢を夜風にたわませる姿は、
それはそれで夢幻の中の生き物のようで美しく。

 旅人なんかが誘われてしまって、
 そのまま立ち去りがたくなってしまって。
 それで命を落としたことが幾例かあったからと、
 魔性があるとか言われてるらしいけど

 “そんな風に言われるのは心外だろうね。”

惹き寄せられた方が悪いんじゃないか。
例えばと見やったのは、
さすがに夜は寒いからと、羽織っていたパーカーを脱いでいる、
大切な恋人のブッダであり。
その所作で少しずれた襟ぐりから覗いた、鎖骨下の白さとか、

 “〜〜〜。///////”

ブッダには罪はなく、
そこへ何故だか蠱惑や色香を感じてしまい、
妙にぐらつく方がいけないワケで。

 「イエス?」

もう遅いから、ほら寝る用意してと。
彼もまた外着のままなのへ、
着替えなさいなと促すブッダだが。
はっと我に返ったイエス様、
そのパーカーのポッケからスマホを取り出すと現在時間を確かめ、

 「………3、2、1、よし。」
 「??」

キョトンとしているブッダへにっこり笑い、

 「お誕生日、おめでとうvv」

そりゃあ朗らかに祝辞を紡ぐ。
日付が変わった瞬間だし、これ以上はないすぐ傍らからと来て、

 「一番乗りのおめでとうだよ。」
 「あ…。///////」

忘れてたわけじゃあないけれど、
さすがにこんな不意打ちをされようとは思わなんだか。
あわわと驚きが先に立っているらしいブッダなのへ、
ふふーと嬉しそうに微笑ったイエス。
そのまま すぐ傍らのJr.の足元へ置いていた
自分の普段使いのバッグへ手を入れ、
小さな包みを取り出してどうぞと差し出す。

 「私の気持ちが入っているよ?」
 「え?///////」

ちょっぴり折り直しの線が覗く包装紙。
もしかせずともイエス自身が包んだ品であるらしく。
視線に促されてそれを解けば、

 「あ…これって。」

その下から出て来たのは、化粧箱にも入れないままの小箱が1つ。
繊細緻密な組木細工で飾られた、
だがそれは仕掛けを隠すカモフラージュでもあるという、
あちこちを微妙にずらしてずらして開ける“からくり箱”のようであり。

 「凄いな、イエスが作ったの?」
 「うん。」

さすがは大工の子でもあるヨシュア様。
今回に限っては、
お手軽な工作キットを買った訳ではありませんで(当たり前…)
設計からして思案を重ね、
組み立てにも慎重精緻な気を配り、
正しく手掛ければ、
箱の方からおいでおいでするかのようななめらかさで開くよに、
そりゃあ丁寧に組み上げた逸品であり。
それを、先程の意味深な一言つきで手渡したからには、

 「えっと…。////////」

この小箱だけでもそれは嬉しい贈り物なのに、
中にも心を込めたものが入っているよということらしく。
そこはわざわざ聞き返さずとも通じたか、
きれいな指と手を箱に添え、
こっちかな此処かなと、さっそく挑戦に掛かった如来様で。

 『ああ、なんて難しいんだろう、開けられないよぉ。』
 『ふふふvv しょうがない、じゃあ手伝ってあ…』

なんて妄想して にまにましておれば、

 「あ、開いた。」
 「え? もう?」

割とあっさり開けられてしまうといいよ。
いや、本当に結構難しい仕組みだったんだろけれど、
相手は仏界が誇る、聡明透徹、知慧の宝珠ですからねぇ。
ちょっぴりがくりと肩が萎えてしまっているイエスだとも気づかずに、
上蓋がするりと大きくスライドして外れ掛かったのを
その手元に見下ろしていたブッダだったが、

 「イエスの気持ちって……あっvv////////」

 箱の中からは、桜の花びらがふわっと吹き出し。
 軽やかに渦を成すと、
 ブッダをくるりと取り巻いてから、
 それは華やかに踊りつつ どこぞかへと去っていってしまい。

  その後には“大好き”と
  見覚えのある字で記された小さなカード

うわどうしようかと、うにむにとたわむ口許を、
含羞みごと何とかして隠したいとしてだろう、
やさしく握ったこぶしの先、指先で覆って押さえつつ、

 「……ありがとね、いえすvv」

小さな声で囁いたブッダであり。

 「いやうん、喜んでもらえれば嬉しいよ。」

含羞みを何とか隠そうとしているなどという、
ちょっぴりレアな恋人さんのお顔を拝めたのは眼福だったものの、

 “もうちょっと掛かって、ついでに助けを求めてほしかったけど…。”

そこがちと惜しかったらしいイエス様だったようでございます。



   〜 今度こそ Fine 〜

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